神楽を伝える村へ/神楽と仮面の民俗誌<企画5-2>森の空想ブログ<25-09>

諸塚村へ通っている。

連続企画/神楽と仮面の民俗誌「高見乾司の神楽スケッチ―神秘の山地神楽とは―」がはじまっているのだ。

途中、お気に入りのスポットで弁当を食べる。

夏はいつの間にか過ぎ、深まりつつある秋を愛でる。

     ☆

【神楽を伝える村へ】

山を越えて行くと、遠い峰の向こうから、神楽笛の音が響いてくることがある。宮崎県には、総数300座を超える神楽が伝承されており、秋から冬、そして春へかけて、山深い村々や海辺の里で、終夜、神秘の舞が舞い継がれるのである。神楽の場に、荘厳な仮面神が現れ、優美な舞が舞われるとき、そこには、勇壮な国家創生の英雄たちの物語と、古くからその土地に座し、人々の暮らしを見守り続けてきた土地神たちの織り成す絵巻が繰り広げられる。

焚き火の煙、焼酎の香り、太鼓の音。舞人、旅人、村人、子供たち。吹きすぎてゆく風、舞い散る小雪

御年104歳になる神楽の画家・彌勒祐徳(みろくすけのり)先生は、98歳頃まで現場に100号のキャンバスを持ち込んで描いておられたが、

――夜中の2時を過ぎた頃、神楽の神様が降りてくる・・・

と仰っていた。

私も、民家で観客の間に座って折り畳み式の小さな画帖を広げて描いたり、神楽の舞われる御神屋の脇に広げるロール式の90センチ×30メートルの大作を描いたりするが、その感覚は良くわかる。神が人に憑依し、人が神に変移する空間。今回、由布院・日田・南阿蘇・高千穂・西都の五会場を結んだ企画として自作を展示し、30年にわたる神楽探訪の旅の一端を辿った。それが次の旅への一歩となり、その地点から、また神楽の現場を訪ねる旅が始まった。日本の古層を探訪するはるかな旅路である。

「しいたけの館21」は村の中核施設。

100年も前から「山と共に生きる」を村是としてきた村の特産・椎茸をデザインしたおしゃれな建物だ。

会場入り口にも桂神楽の絵を飾った。

10月28日に迫った東京・国立能楽堂での公演に遠くから声援を送る心意である。

     ☆

【諸塚・桂正八幡神社の八幡様】

八幡神とは、

弓矢で狩りをした古<いにしへ>の神。

古代、精銅と製鉄の技術を持ち、北部九州に渡来し

宇佐八幡を本拠とし、全国の八幡神社の総鎮守として

歴史の舞台を彩ったが、

各地に点在する八幡神社はそれぞれに地方色を加えながら、

村の鎮守神として勧請され、信仰された。

中世以降、武神として信仰されて各地に勧請され、さらに分布を広げた。

豪壮な仮面をつけ、弓と矢を採り物に降臨する。

神楽「八幡」はこれを基底とする。

桂正八幡神社の八幡様はこれらの歴史的背景を持つ。

高千穂神楽として伝わったという記録を持ち

古形を残しながら伝承された稀有の神楽である。

戸数4戸の村で舞い継がれ、

7年に1度の大神楽は24時間をかけて開催される。

 

【笠取鬼神】

一夜舞い継がれた神楽の最終の演目で、

地主神である鬼神(荒神)が

注連柱から御神屋正面へと張られた綱に下げられた

「笠」または「日・月を象った円板」を

両手に掲げて舞い納める。

「笠」とは農耕神の象徴であり、

「日・月」は宇宙星宿の象徴。

めでたく成就した神楽を慶び、感謝して

神楽の場に降臨したすべての神々を

送り還す儀礼である。

     ☆

八幡神にも笠取鬼神にも多方面からの解釈があるが、筆者(高見)なりの見方を添えておこう。